詩の出処
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岡本弥太 詩集「瀧」より
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母の碑
すべての母の逆境は
こぼれてゆく石のおもてに露さへ含んで
かつちりと
天地の創から計数されてあることではないか
その子の十悪のとがも
はればれといまはふるさとの秋の朝日に光り
あさ日はまた
母のむくろのなかにも羽搏き
花崗の愛は風雨に耐へて緻密に生きのこる
死ぬるものは
このこぼたるゝ石のおもてに生れ
やがてその石も一握の砂の光となりてかへることであらふ
風はやがて辺土の母の砂をまきあげ
きはみのない愛の虚空だけが誰にも咎められることなく
安らかに眠ることであらふ
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